第44回全国大会報告

2013年11月15日より17日まで、福岡市の九州産業大学において日本広告学会第44回全国大会が開催された。今回の統一論題は「もういちど、『広告』-これからの広告の姿を考える」である。
1日目の15日(金)は午後より部会委員会をはじめ各種委員会が開かれ、その後に行われた拡大常任理事会では昨年度の活動報告と本年度の活動計画が報告・了承された。
 2日目の16日(土)は10時に開会し、飯高由希雄・運営委員長(九州産業大学)の開会宣言に続き、岸志津江会長から挨拶があった。

開会宣言をする飯高由希雄・運営委員長(九州産業大学)

岸会長は、メディア環境や消費者の行動に変化が見られる一方で、広告には伝え、人と人をつなぎ、ブランドを構築するといった変わらぬ機能が存在することを強調した。加えて、偶然出会う広告によってニーズに気づかされ、関心や行動が変わることもあると指摘。学会としても改めて広告の役割を研究していきたいと語った。また、今大会では国際学会参加報告と国際セッションでの研究発表が行われるが、今後も国際交流に取り組んでいくと表明した。

 統一論題ではまず特別講演として、熊本県商工観光労働部観光経済交流局くまもとブランド推進課長の成尾雅貴氏が「くまモン成功の秘密」について解説。「誰かをびっくりさせるような、幸せな気持ちになるようなことを、熊本県民みんなで考え、実践しましょう」との思いのもとにキャラクターをつくり、“くまもとサプライズ”“話題化計画”として関西方面での出没のほか、マスコミ4媒体やSNS、画像投稿サイトなどを使って展開した多彩な戦略を紹介した。自治体の認知度を上げるためには、能力や技術を駆使して伝える努力が欠かせないという。
 続く基調講演では売れるネット広告社代表取締役社長の加藤公一レオ氏、多摩美術大学の佐藤達郎教授が順に登壇。加藤氏はネット広告のレスポンスを確実に上げるためには、予算の1割でよいのでキャンペーン前にスプリットラン方式でクリエイティブテストを行うことが重要だと主張した。消費者に最も支持されたコピーや写真を使った広告が最も効果を上げることが実証されていると、熱弁をふるった。佐藤氏は今日注目を集め、ひんぱんに使われている言葉、“ソーシャル”の意味と傾向を分析した。広告、マーケティングの世界でも「社会の、社会的な」という意味合い(“第一のソーシャル”と分類)と、「人と人との間の、社交的な」という意味合い(“第二のソーシャル”と分類)で使われる場合が混在しているが、昨今は前者の要素を持つものが増え、評価を受けていると、カンヌライオンズの受賞事例をもとに指摘。そのうえで二つのソーシャルを上手に掛け合わせた展開が、最も有効な方法論となっていると提示した。  次いで、講演者3氏と司会の大分大学・松隈久昭教授によるパネルディスカッションが行われた。今大会の論題に関連し、「企業や消費者は広告に何を期待しているのか。広告はこれからどのような姿をとるのか」という提起に対して、成尾氏は広告主の立場から成果指標としてSNSのフォロワー数増加や、話題、サプライズを提供する存在としての期待をあげた。加藤氏は、広告はよりシビアなものになるだろうが、“オフライン広告”出身者に優秀な人材が多いことをあげ、“アナログマーケティング”へのデジタル活用が鍵を握ると訴えた。また佐藤氏は、むしろ消費者が広告に何かを期待しているという目線で見てはいけない、これからも変化には対応すべきだが、その都度応じていくようなスタイルにならざるを得ないだろうと述べた。主張に違いが見られ、それぞれ刺激的な発言であった。

パネルディスカッション (左より松隈氏、成尾氏、加藤氏、佐藤氏)

午後のプログラムでは、まず研究プロジェクトの研究発表が行われた。日本広告学会から研究費助成を受けたもので、今回は早稲田大学の土屋礼子教授と大阪市立大学の竹内幸絵講師の共同研究「聞き取り調査による戦後日本広告史の基礎研究」の1件が報告された。70歳以上の広告会社OB、30人にインタビューを実施し、戦後の広告業の実情を知るうえで貴重な証言を引き出したものである。
 続いて国際学会参加報告が行われた。国際交流助成事業の助成対象として国際学会参加補助を受けた研究の報告で、ICORIA(International Conferences on Research in Advertising = ヨーロッパ広告学会(EAA)の年次大会)で発表した早稲田大学の峯尾圭、小樽商科大学のカロラス・プラート、AAA(The American Academy of Advertising = アメリカ広告学会)で発表した川村洋次の各研究者から、発表内容や当日の様子だけでなく、応募から採択に至る流れやレビューの評価基準など、興味深い報告があった。  この日は最後に会員総会が開かれ、来年度の全国大会開催校(立教大学:12月5~7日)に関する報告も行われた。

 3日目の17日(日)は19件の自由論題研究とともに、国際セッションとして4件の研究が発表された。自由論題のテーマは多岐にわたるが、今日およびこれからの広告について考察した2件の研究ほか、広告効果と消費者の情報処理6件、クリエイティブマネジメント・表現開発6件、インターネット関連の消費者行動2件、広告・マーケティングマネジメント2件、コーポレートコミュニケーション1件の対象領域に大別することができよう。
 日本広告学会が推し進める国際交流の一環として行われた国際セッションでは、国内研究者2名と韓国広告学会から招聘した会員2名の研究発表が行われた。いずれも発表はもとより質疑応答も英語により行われ、韓国広告学会のDongyoung Sohn氏(Hanyang University)は“Social Media and Information Diffusion”、Sejung Marina Choi氏(Korea University)は“Celebrity Advertising and Culture in Korea”のテーマのもと、研究成果を披露した。

 最後に水野由多加副会長が大会を総括する挨拶を述べ、無事閉幕した。
 なお、全国大会で報告するには正会員でなければならない。報告申し込みは例年6月中旬までに受け付けられるが、関心のある方は是非学会に参加されることをお勧めしたい。加入についてはホームページhttp://www.jaaweb.jpを参考にしていただきたい。  本大会が無事終了したのは、運営委員長の飯高由希雄、副委員長の松隈久昭、運営委員の有馬厚子、小森俊介、土井文博、古川静男の各氏および実行委員長の五十嵐正毅氏と裏方としてサポートした学生の皆さんの献身的な活動があったからであり、1参加者として心より感謝を述べたい。
      (執筆: 土山 誠一郎、広報・学術交流委員)